大判例

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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)1229号・昭46年(ワ)3255号・昭47年(ワ)5239号・昭46年(ワ)2169号・昭46年(ワ)3734号・昭45年(ワ)9590号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(一) 前示のとおり、第一事件については原告の敗訴が免がれず、また第二事件についてはすでに訴の取下により終了したのであるが、被告テーラーは、原告の右各訴の提起自体が不法行為にあたるとして、やむをえず弁護士に訴訟委任して応訴するために支払つた費用の賠償請求を求めている。これがすなわち第五および第六の各反訴事件である。

ところで、不当に訴を提起され、その訴が不法行為の要件を具備しているときらは、弁護士に支払つた相当額の報酬につき民法の不法行為の規定にしたがつてその賠償請求ができることは理の当然である。しかし、訴の提起による不法行為が成立するためには、単にそれが結果として敗訴(取下もこれに準ずる)に帰したというだけでは足りず、訴提起者が請求権の不存在を知りながら、被告を害するため、または他の目的意図をもつて訴を提起するなど、それ自体公序良俗に反するような違法性のあるものであるか、または訴提起者がわずかな注意を払うことによつて容易に請求権がないことを知り得たのに、この注意を払うことを怠り、ために請求権ありと誤信して訴を提起した場合でなければならない。そこで、以下この観点に立つて、前記第一および第二事件の訴の提起の違法性ならびに訴提起者の故意、過失について順次考察する。

(二) 第一事件の訴の提起と不法行為の成否

原告が前記債務名義に基づく競売手続が完了したと主張する昭和四〇年一二月七日に競売期日の指定がなされたことは<証拠>によつて認め得る。しかしながら、右競売期日がその執行場所とされた原告宅(借家)に施設がなされ、全戸不在のため中止になり、競売が実施されなかつたことはもとより、その後も競売手続が不能となつていることは前認定のとおりである。ところで、原告がいかなる証拠資料に基づいて右期日に競売が完了したと主張するのかを考えるに、原告本人の供述によれば、原告は昭和四一年初め家主からその保管していた右競売期日通知(甲第一〇号証)を受取つたが、その際右家主は右期日頃裁判所のみがたくさん来て競売したようだと話をしていたことに尽きることは明らかである。このように訴の提起がすこぶる曖昧な資料に依拠しているばかりか、前記(1)(3)の認定事実に弁論の全趣旨をあわせ考えると、原告において前記差押物件を毀滅したり他に処分したりしたかは暫く措き、右物件が競売手続において競落されて競落人がその引渡を受けたような事実がないことを原告は自ら知つていたか、あるいは容易に知り得たものと認めるのが相当である。

さらに、原告が右訴を提起した意図ないし動機の点につき考える。<証拠>を総合すれば、被告テーラーが前記代金三九、五〇〇円を被保全権利とする債権差押決定を得るや、原告はこれに対し異議を申し立て、控訴、上告さらには再審、その却下判決に対する特別上告までして争い、また、右仮差押決定の取消を求めて控訴、上告をなし、さらに、右異議事件に伴なう訴訟費用の確定決定を得るや、これに対しても抗告、再抗告をなし、いずれももとの主張が斥けられていることが認められる。右のように、原告が訴訟手続を濫用している事実と右第一事件の訴の提起が他の債権者からの併合差押がなされた昭和四五年九月一八日から旬日を経ない同月二六日にはなされている事実をあわせ考えると、原告はことさら被告テーラーの強制執行を妨害する意図から本訴提起の手段に出たと認めるのが相当である。

以上検討したところによれば、原告の右第一事件の訴の提起は前述した不法行為の要件を具備しているものというべきである。

(三) 第二事件の訴の提起と不法行為の成否

第二事件における原告提出の訴状によれば、その訴旨は、前記債務名義に基づく請求権が競売の完了によつて消滅したことと、東京地裁の裁判所書記官が昭和四六年三月三日被告テーラーのために違法な執行文付与をなしたことを理由として、右執行正本に基づく強制執行の不許宣言を求めるものである。

しかしながら、執行文付与に対する異議の訴は、条件成就もしくは承継の事実を争つて執行文付与の違法を主張し、強制執行を阻止するために法が認めた訴であり、執行文付与に対する異議の事由となり得るような執行文付与のための形式的要件の欠缺(債務名義の不存在、無効)のみを理由としては本訴を提起できないとともに、債務名義に表示された請求権自体の存否を争うためには、もつぱら請求異議の訴によるべきなのである。したがつて右第二事件の訴は、その訴の形式自体に疑義があるのみならず、その主張として掲げる前記諸点が実質的にみていずれも理由がないことは前述したところから明らかである。

そして、本訴の提起も、裁判所から右執行文付与の通知を受けるや直ちに提起されたものであることと、前記2(二)の認定説示をあわせ考えると、本訴もまた原告が前同様の加害意図をもつて提起したもので、不法行為を構成するものといわなければならない。もつとも、本訴がその後に取下げられたことは先に判示したとおりであるが、被告テーラーはその応訴のために近藤弁護士に委任して答弁書を提出し、取下げるまでに四回の準備手続期日を重ねているのであるから、右取下げによる訴訟の終了の点は前記訴による不法行為の成立に消長を来さない。

(伊東秀郎 小林啓二 篠原勝美)

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